2、従業員満足度の向上
2-2 経営者(院長)に求められる懐疑主義的発想
前回、従業員が院長に求める最優先事は『人間関係』であることを理解して頂いたと思います。そして、この『人間関係』創りが従業員の満足度を向上させ、医院経営向上の最大の要素であることも、科学的に理解して頂いたと思います。
さて今回からは、従業員が求める人間関係創りに必要な院長の基礎姿勢がどうあるべきかを考えてみることにしましょう。
第一に院長が『懐疑主義的発想』を持っているかを確認させてください。
懐疑主義とは、ものごとを信じる場合に、十分な根拠が存在するまで疑いの余地を残しておくという態度であり、問題に対する解答を探求する過程がもっとも重要であるという態度です。つまり、日常の問題に対して、安易な既成の解答ではなく、よりよい解答を得るための第一歩なのです。
歯科人事的な実例をあげてみることにしなしょう。
A歯科医院では、歯科衛生士が計ったように2年毎に退職します。ゆえに、2年毎に人材の募集に着手し、その度に募集広告を掲載し、その度に数十人の問合せを忙しい診療中に受け、その度に面接をすっぽかされたり、面接をできたと思えば、面接した人間が履歴書に写真も貼ってなければ、印鑑もおしてなかったりします。
ここまででも、かなりの経費的損失が発生し、精神的には想像以上に痛めつけられているはずです。しかし、どうにか採用基準に達した人材を得るところまでこぎつけます。が、出勤開始日の前日に電話があり、「やっぱり、就職止めました」とか、なんの連絡もなく出勤せず、後もなんの音沙汰もなかったりします。
すでに、他の採用候補者には不採用の返事をだしてしまっています。恥を忍んで断った人に採用の意思表示をしてみますが、すでに他の歯科医院に就職を決めてしまったという。
「さあ、どうする」と迷った末、同じ繰り返しの恐怖を予感しつつも、もう一度募集広告の掲載を決意します。一方で、「いい人紹介しますから前金で○○円お支払いください。」という業者にワラをもつかむおもいで、申込みをしてみるが・・・。
皆さんはこの現象をどう分析されますか?
懐疑主義的な発想では、「なぜ歯科衛生士が2年で辞めてしまうのか。」が問題の中心であり、それ以後の募集方法、面接、採用などは二次的な問題とされます。
孔子の「人の己を知らざるを患えず、己の人を知らざるを患う。」という言葉があります。相手が自分を理解してくれないと悩むことはない。それよりも、自分は果たして、相手を本当に理解しているだろうか。それを心配するべきである。という意味です。
つまり、経営者はスタッフが辞めてしまう事実を受け、スタッフが辞める理由、原因をどれだけ経営者(院長)自身に求めるかが、問題解決(懐疑主義的な発想)の出発点なのです。決して問題解決のための追求を相手(退職していく従業員)に求めてはいけないのです。なぜなら、人間関係を創る主役は従業員ではなく院長自身だからなのです。院長と従業員の人間関係創りの「何が失敗か」「何が事実か」「何が証拠か」「何が原因か」といった簡単な問いを自分自身、時には周囲の人に投げかけることも必要です。しかし、周囲の人の意見には注意深く接して頂きたいものです。追求が息詰まると安易なうわさ、投げやりな意見が判断を狂わせる場合があるからです。絶えず、科学的な判断を心掛けて頂きたいのです。
今井 義博