1 経営方針(診療方針)明確化のために
1-4 人間観の理解(1)科学的管理法における人間観
さて、皆さんが扱うのは結局のところ人間であることに間違いありません。つまり、人間の行動、心理(人間観)の基本を把握しておいて頂きたいのです。人間観は時代に応じて変化し、様々な理論が発表されていますが、その主要な理論と、現代歯科人事への応用を考察させていただきます。
まずは、20世紀初頭のアメリカの能率技師フレデリック・テーラーの『 科学的管理法 』ですが、彼は労働者に対し「働きに応じた賃金」と「公正な作業量」を与えるべきだと解きました。現代風に言えば「歩合(能力給)」と「タスク(標準作業量=ノルマ)」です。歯科界で言えば、勤務医に対する歩合給がそれです。ところで、歯科界における歩合給についての考え方は、一般企業よりも数段進んでいることには自信をもっていただいても宜しいかと思います。ただし、仕事のクオリティーと作業量とのバランスが取れているか否かは別問題ですが・・・。
テーラーは以下の「科学的管理の5原則」をまとめています。
① 労働者には明確で、やや難しいタスクを与えること
② タスクの達成には必要な諸条件を標準化すること
③ タスク以上に成果が認められた場合は高い報酬を払うこと
④ タスク以下は損失を負担させること
⑤ タスクは一流の労働者でも難しい水準に設定すること
さて、以上の5原則が現代歯科人事に全て当てはまるかどうか?歯科人事バージョンに置き換えてみることにしましょう。ただし、前提条件としてタスク(標準作業量)が公正であることが重要です。
①従業員には明確で、背伸びをしてやっととどく位の目標を与えること。
一般の中小企業のワンマン経営会社によくあるパターンですが、届くはずのないノルマを与え、従業員のやる気を最初から無くすパターンを私は知っています。「 できるわけないだろ、こんなノルマ、社長がやってみてくれよ。」です。一代で財を築き上げた豪腕社長は、自分がやってきたことは従業員にだってできるに決まっているという錯覚に陥るものです。手の届く目標でないと、努力が報われたという達成感を得られません。達成感無くしては、人間の成長は絶対に望めません。
②目標の達成のために、達成させられるだけの条件を整えているかどうか。
極論ですが例えば、歩合給が売上の30%としても、患者の分担が1日に5人では話しにならない。(もちろん、今時30%の料率を提示している経営者はいないとは思いますが。)つまり、勤務医に求めるべきタスクと、医院がそのタスクを達成させるだけの設備投資、人材投資とのバランスが取れているかどうか、今一度、科学的な判断の基に再確認していただきたいと思います。
③成果が認められた場合には適正な報酬を支払うこと。
決して、高い報酬を支払う必要はありません。前述のように報酬とタスクが科学的であれば、勤務医の納得は得られるはずです。逆を言えば、適正な報酬であることの科学的根拠がなければ、勤務医(スタッフを含む)のモチベーションは向上しないということです。
今井 義博