求職者が院長にもとめること
このシリーズは筆者が、求人者と求職者の間に立ち、紹介事業を実践した長年の経験の中で、様々な求人者の失敗、求職者の失敗、そして筆者の失敗をもとに執筆されたノンフィクションであり、歯科の人材問題を実務者の立場から解決すべく、作成された提案レポートでもある。
1、経営方針(診療方針)の明確化
1−1理想と現実は伝達されているか
結論から申し上げます。求人時、面接時に医院の良いところばかり言うと、必ず後でトラブルがおきます。医院の悪いところも、きちんと話しておくべきなのです。思い当たらなければ、あら捜しをしてでもです。これには計り知れない効果があることをご存知でしょうか。
医院には当然、理想的な経営方針や診療方針があります。しかしながら、理想的な診療が実際に行なわれているか否かは、別です。そして、求人時、面接時における求職者に対するプレゼンテーションにおいて理想的な方針ばかりを伝え、その理想と現実とのギャップを伝えない経営者(院長)が驚くほど多く、求職者がその理想論に心打たれて就職を決めた場合は、後に悲惨な結果を招くことを私は知っています。
求職者の就職の決め手が『 現実とのギャップを伝えない経営者の理想論 』であった場合は、現実にその理想が履行されているという判断で就職する訳で、もし、臨床現場において、完全履行されていない場合は、求職者の『 やる気 』は音を立てて崩れて行くのです。『 理想論 』から『 机上の空論 』へ、そして、『 虚言 』へとマイナス成長を遂げ、お決まりの「 話が違うじゃない。」で結ばれ、最悪の場合、テロリストに変身し周りを巻き込みながら、医院を去って行く。求職者に対し、理想的な話だけをすれば、経営者に対しても理想だけを求めるのは当たり前であり、求職者を100%責めることはできないのです。
思い出して頂きたいのですが、患者からのクレームのほとんどは、「 そんな話聞いていない。」の類で、原因は共通して『 説明不足 』にあります。つまり、事態が悪化する事を予測し、先回りして説明しておくか、事態が悪化してから説明するかの、大きな違いをご存知のはずです。後者は言うまでもなく『 説明 』ではなく『 言い訳 』であることも周知の通りです。
ただし、経営者(院長)がどんなに真実を話しても、どんなに誠実に接しても、『 トンチンカンな求職者 』が存在する事も私は知っています。
さて一方で、診療方針の理想と現実をほぼ正確に求職者に伝えている医院の経営者に目を向けてみますと、従業員の定着率は驚くほど高く、収入も高値安定の傾向にあります。そして、従業員満足度も患者満足度も高いのです。
つまり、経営方針や診療方針を求職者の面接時に説明する場合には、理想的な診療(目標)を明確にし、それを達成するために現実的に何を行なっているか、現実的に何をやりのこしていて、現時点どこに位置し、どの程度で目標(理想)に達成できるかを客観的に表現する必要があるのです。
今井 義博